◆物語を預かる / なぜ挨拶は必要か(第102話) [てくてく日本]
こんにちは~(^v^)
街歩きの楽しみの一つ。
それは、人々の会話や物語を預かることです。
その日、僕は大阪の地下鉄に乗っていた。
真昼間の始発駅。座席は余裕。
そのおじいさんは僕に遅れて乗り込んできた。
そして、僕の隣に座った。
おじいさんはおもむろに話しかけてきた。
僕はなぜだか、よく声をかけられる。
お互いの年齢や行き先などを言い合い、自然、話はおじいさんの昔話に。
おじいさんは80歳。
昭和23年に起重機(クレーン)の免許を取ったという。
18歳の時だった。
ということは、おじいさんは昭和5年生まれ。
昭和ひとケタ。銭形のとっつぁんと同じだ。
いろんな話をしてくれた。
おじいさん本人も力が入ったのはこんな話。
ある日、起重機を操作中の時のこと。
深夜の作業だった。
突然、起重機の回転が止まらなくなった。
運転席ごとぐるぐる回る。
おじいさんが焦ったのは、起重機がぶらさげている部材だ。
落下させれば一大事。
携帯など無い時代。
助けを求める連絡はできない。
おじいさんは必死で原因を探した。
こんな時こそ、焦ってはいけない・・・落ち着け、何が原因だ?
あった!
操作に必要な3本のワイヤーのうち、1本が切れている。
操作不能になるのは当たり前だ。
つまり、このままでは起重機が停止することは無い。
おじいさんは部材の落下を防ぐことを第一に考えた。
どうすれば良いか?
ぐるぐる回る運転席の中で考えた。
そうだ!
となりの起重機にぶつける。
回転スピードを最小にすれば、お互いの損傷も最小限に収まるだろう。
瞬時の判断。
機転がきく。
臨機応変とはこういうことだ。
おじいさんはとなりの起重機にぶつけた。
おじいさんの起重機は止まった。
部材の落下も防げた。
しかし、原因はともかく、会社からはお目玉を喰らうだろうな。
おじいさんは気が気ではなかった。
案の定、次の日呼び出された。
対峙した上司の様子が変だ。
ニコニコしている。
そして言った。
「ありがとう」
礼を言われた。
「?」
何かの間違いじゃないかとおじいさんは思った。
「となりの起重機にぶつけてくれて、ありがとう」
「へ? どういうことですかい?」
「うむ、実はとなりの起重機の運転手は居眠り常習犯なんだ。
注意し続けても治らない。
昨日も実は居眠りしていたんだ。
そのままにしていたら危ないところだった。
よくぶつけて目覚ましてくれた」
「はぁ・・・」
お礼とともに金一封。
びっくりした。
おじいさんは僕に言いました。
「人生、何が起こるか分からない」
本当にそうだ、と僕も思った。
おじいさんが僕の隣に座ったのも、思い出話を聞かせてくれたのも、
5分前には想像もしなかったことだ。
まさに塞翁が馬だ。
素晴らしい物語を預かりました。
おじいさんは「あ、この駅で降りて、バスに乗らなあかんわ」と言って席を立った。
そして、ホームに立ち、座っている僕に一礼し続けていた。
僕も思わず姿勢を正し、お辞儀した。
ではまた~(^.^)/~~~
写真:造船所の起重機(本文とは関係ありません)
最高のリーダー、マネジャーがいつも考えているたったひとつのこと
- 作者: マーカス バッキンガム
- 出版社/メーカー: 日本経済新聞社
- 発売日: 2006/01
- メディア: 単行本
世にも奇妙な話ですね。
しかし後に、話のタネとなる、良い思い出になったのではないでしょうか。
九州に旅行に行ったら、知らず知らずの内にグッドバランスさんに話しかけてしまうかもしれません(笑
by えがみ (2010-10-07 12:47)
>えがみ様
いつもありがとうございます。
そうなんです。本当に、世にも奇妙でした。
時間にしても20分もなかったでしょう。
はい、是非、お声かけをお待ちいたしております(笑)
by グッドバランス (2010-10-09 11:17)